い違い

好いた相手である前に友である事を失念していた

「退け」

 一呼吸の後に言われた一言に俺は息を詰まらせた。退けと言われて退ける筈もない。俺の目の前で白い息を細く吐いては緑青色の首巻に首を窄めるみつねは久々に見た乙女の姿そのもので、眼差しの鋭さからも「退け」と俺に命じてくる。誰が退いてやるものか。

「そんな格好して何処行く気だ」
「留三郎には関係無い」
「関係はある」
「私には関係無い」
「言えない所に行く気なのか? だったら尚更退けられねえな」
「……本当に面倒な」

 脇に抱えていた木材を柱の下に置いて、一通の廊下に仁王立ちしてやる。仙蔵との一件で俺がみつねに事の真相を話さなかったという事に未だ腹の居所を悪くしたままなのか、みつねは俺にかなり冷たい態度を取るようになった。仕方が無い事だとは分かってるが毎日続くと俺も本人前にして凹んでしまう。俺はみつねが好きだ。振り向いて欲しい。俺を見て欲しいんだ。そう伝えても何も返ってこない虚しさに胸の奥がずきずきと痛みやがる。みつねは仙蔵の事を好いている。それが分かっているからこそ、俺は。

「好いた女が俺以外の男と一緒に居るなんて、胸糞悪い」
「私は男だ。それに、私は留三郎のものになった覚えは無い」
「……分かってる」

 分かってるけど。

「分かってるなら退け……。留三郎がそんな事ばかりするから、私は未だにお前を許せそうにないんだぞ」

 肩を掴まれ端へと退かされる。去り際に「私はそんなに――留三郎にとって友と呼べない者なのか」とみつねに囁かれ、俺はそこでようやくとみつねが俺に対して冷たく振舞うのかが分かった。





 動けなかった。俺は長次に何て言った。「みつねは俺達の仲間だろう!?」って、胸倉掴みながら言わなかったか。言った。俺は長次に確かにそう言った。だというのに俺は。

「長次の事、俺……言えねえよな」

 振り返り見てもそこにはみつねの姿は無い。誰の為に女物を着て、誰の隣で笑うのか。

「突っ立ったままどうした」
「仙蔵……」
「頬が真っ赤だぞ。風邪引く前に室に入れ。俺が茶でも淹れてやろうか?」
「いや、いい」

 置いたままの木材を抱え上げて、俺は仙蔵の視線から逃れる様に室に入った。