日限りの約束

男とは思えない可愛らしい姿に

 外出届けを手に俺は門前で伏見先輩を待った。紺地の首布の隙間を埋める様に寄せると、気持ち少しばかり温かくなる。今日の伏見先輩の女装はどんなものだろうか。足の傷も大分癒えてきたとはいってもあまり無理はさせられない。男性と云えど今日は女性と思って接した方が良いかもしれない。まあ、きっと伏見先輩の女装を目の前にしたら俺も女性としか見れなくなりそうな気がするけれど。以前に見た伏見先輩の女装はとても可愛らしいものだった。「可愛い」と口にした途端に顔を赤らめて。本当に――伏見先輩が女性であれば良いのにと思ってしまう。

「兵助!」

 伏見先輩の声に俯いていた俺はすっと面を上げた。小走りに寄って来る伏見先輩の姿を目に留めて、思わず。

「どうした、兵助」
「……本当に」
「本当に?」
「男性なのか、疑ってしまいますね」
「えっ」

 梅の地に薄桜と白の模様が伸びる衣を纏い、緑青色の布を首に巻かれた姿に俺は思わず「可愛いですね」と口にしてしまった。肩元で緩く結われた黒の髪が首に巻く布の下に隠れていて、ちらちらと見え隠れする髪の先や布下から覗く髪が胸元に流れていて。とにかく、とてもその様が可愛らしい。薄く塗られた紅も形が良くて、細く吐かれる息の白さとか。見上げられる睫の長さとか。寒さに紅潮しているのか俺の言葉に頬を赤らめたのかよく分からなかったけれど、少し気不味そうな恥じらいにも見える仕草を見せ視線を逸らされてしまった。本当に可愛い。こくんと鳴らした喉の音、聴こえていないかちょっと心配になった。俺は伏見先輩の姿に鼓動が早鳴って往く気がした。

「さっさと行くぞ」
「照れてるんですか?」
「行くぞ! それとも行かないのか!?」
「行きます」

 小さな門戸を押し開けて、その先で箒を手にくしゃみをしながら道の清掃をする小松田さんに外出届けを出して、俺は伏見先輩の手を取った。指先がちょっと冷たい。けれど、掌はとても温かい。

「今日は俺の彼女ですからね、伏見先輩」