であるからこそ

友が傍に居たいというのであれば拒む事なんて出来る筈がない

 突然、「なあ、何の話だ? 栢丸は分かるか?」と振り向いてきた小平太に、私は唯「さ、さあ。私にも分からん」と答える外無かった。伊作の面から察するに、小平太は私の正体を知っているのではと考えたのだろうけれど。いや、私もそれは思った。小平太は気付いているんじゃないだろうかって。けれど、不思議そうな面を向けられると杞憂なのではとさえ思えてくる。小平太は鼻が良いし、耳も良い。まるで犬だと思う程に野生的というか本能的というか、そんな節をよく見せる。だから、本当に知っては――理解してはいないのではと、私の答えは落ち着いた。伊作はまだ疑っているみたいだけど。

「まあいい。細かい事は気にしない。それよりも布団敷こう! 積み上がっている畳、何畳出すんだ?」
「……僕と栢丸と小平太の三人分だろう?」
「そうか。……長次や留三郎も呼ぶか! 仙蔵と文次郎も呼んでくる!」
「え、待って、小平――」

 名を呼び終える前に室を飛び出した小平太の背を見送った私は、伊作に「医務室に七人並んで寝られるのか?」と問うては疲れ切った伊作の面を見て愚問だったと思わず口に手を当ててしまった。隣の室を使えば良いのだろうけれど、小平太の事だから隙間を埋めてまで皆で並んで寝たいと言うのだろう。

「ぎりぎり五畳。肩身狭くすれば寝られない事も無い……小平太の目測は確かだろうから、寝る場所さえきちんとしておけば大丈夫じゃないかな。医務室ではなかったけれど、昔、何度か皆で寝た事があったし」
「一人必ず縁側に蹴り出されて風邪引いていた奴が居たけどな」
「僕の事は良いの。それよりもみつねが心配だよ。昔はそんなに差は見られなかったけれど、身体を寄せ触れ合えば――ふが」
「伊作」

 伊作が心配してくれているという事にとても温かいものを感じるけれど、私は伊作の鼻を軽く摘んで言葉を遮った。

「私は伏見栢丸だ。それだけは忘れてくれるなよ」

 この五年間と半年。身体を寄せ合い触れ合ってきたのだ。拳を合わせて傷を付け合ってきた仲なのだ。女である前に一人の――六年い組の伏見栢丸であるからこそ、私は伊作に再び「私は栢丸だ」と口にした。