と子の遊び

逃げては追われ、縋るものも無し

 私の上で大きな身体を必死に小さく丸め込んで痛みに耐える長次に、私は合掌した。「ごめん」の一言を何とか搾り出すと、私は長次の両の肩に手を置いて、思いっきり横へと退かした。未だに身体が震えてる。怖かった。けれど、私は頑張った。長次に解かれた帯を手に、衝立まで四つん這いに歩く。今はとにかく、長次から距離を置かないといけない。衝立に手を着いて、私は不安定な身体を立たせた。震える手で腰帯を結び直して、私は衝立を盾にする為に裏に回った。

「私、長次に、抱かれたくない」
「みつね……っ」
「長次と普通に友達で居たいんだ。みつねではなく、栢丸として。身体の関係というのも嫌だ。私は、長次や皆を騙して……こんな事を言うのは我儘だと分かってる。でも、私は……嫌なんだっ」

 友を失いたくない。男とか女とか、関係無い。私にとって皆は、友なんだ。
 長次が皆に私が女だと言えば、私は学園に居られなくなる。それは嫌だ。けれど、この状況を招いたのは私だ。ならば、受け入れる外、無い。私は長次を置いて、室を出た。途端、よろけてしまいそうになったけれど、柱で身を支えながら私は茶屋を脱した。長次に追い着かれる前に学園に戻りたい。そして、誰かと。誰かの傍に居たい。一人では居たくなかった。





 室に駆け込むと、仙蔵が驚いた顔で迎えてくれた。大の字に寝ていたのだろう、上半身を起こして私を見上げる仙蔵の顔は普段のもので、私の心を落ち着かせてくれる。「どうした」と仙蔵の声が聞こえる。手に持っていた荷をその場に落として、私は仙蔵の背後に回った。そして、ぎゅっと仙蔵の腹を抱えて、その広い背に顔を押し付ける。

「栢丸……」
「せ、んぞっ、済まな、い……ぅっ」

 大川学園で声を出して泣いたのは初めてだ。喉の奥が潰れそうに苦しくて、涙が止まらなくて、私は出来得る限り小さな声で泣いた。失いたくない。怖い。友で居たい。口に出来ない言葉が私の胸を締め付けてくる。
 私は何も言わずに居てくれる仙蔵の背中を涙で濡らした。





 夕食時に長次と顔を見合わせたけれど、私は何か言われる前に顔を背けて、既に席に着いて食べていた伊作の隣に座した。途端、私の顔を引っ掴んで食い入る様に見る伊作。とても顔が怖くて、思わず伊作の腹に蹴りを入れてしまった。私の目が赤い事に心配になって診てくれていたらしい。今日は伊作に申し訳無い事ばかりしている気がする。私の前には長次が座した。でも、私は長次の言葉に相槌を打ったりと、普段と変わらない返事をするだけで、視線は一度も長次へ向けなかった。常にご飯と向かい合う。別に無視をしているわけではない。唯、見れなかった。それに、私の隣は伊作の外に小平太が座っている。小平太にほうれん草のお浸しを摘まれない様に見張る事で精一杯だったという事もある。
 長次は、私が女である事を皆に話してはいないようだった。何故なのかは分からない。何故、のその理由を知ったのは、布団に入って、暫くした後の事だった。

「済まん。泊めてくれ」

 枕を片手に入って来たのは長次で、私は跳ね起きた。「何だ」と仙蔵が問えば、「小平太が女を連れ込んだからだ」と長次が抜かす。違う。連れ込ませたの間違いだ。私は長次の真意を悟った。長次は私を抱きたいだけなんだ。抱きたいからこそ、私が女である事を誰に言う事も無い。言ってしまえば、私はこの学園に居られなくなり、長次に抱かれる事など無くなるのだから。事実、長次は私の方へ寄って来る。

「待て。何故、こっちへ来る」
「栢丸の方が仙蔵よりも華奢だから」
「……ならば、私が仙蔵の方へ行く。長次は此処で寝れば良い」

 枕を手に立ち上がると、私は長次と距離を保つ為に室の奥から仙蔵の方へと回った。

「俺はみつね以外とは共に寝んぞ」
「あ、あのなあ、仙蔵――」
「こっちへ来い、栢丸」

 私は一体何をしているのだろう。少し前であれば仙蔵と共に寝ようなどと思わなかっただろう。だというのに、私は今、仙蔵の隣で寝ようとしていた。長次と共に寝るくらいなら、仙蔵と寝た方が良い。そう、思ってしまっていた。仙蔵には知られたくないというのに、仙蔵とは距離を置かなければならないと思っているのに、心のどこかで仙蔵に縋ろうとしている。

「……厠へ行ってくる」

 枕を長次の下へ放り出し、私は逃げる為に室を出た。