長次は他言はしないと確かに言った。私も耳にした。けれど、長次の腕に抱き締められた時、悪寒が身に走った。何よりも、長次は「花香の店」と口にした。年頃の男児であれば何の店なのか知らない筈は無い。私も一応は今は男だから、それなりに知っている。そう。花香という名の店は出会い茶屋だ。長次は私が知らないとでも思ったのだろうか。否、私が知っていると踏んで口にしたのだ。これは――遠回しに、黙っていてやるから抱かれろと、そういう意味なのだろうか。いや、長次に限ってそんな事――分からない。男と偽り皆の隣でのうのうと過ごしてきたのだ。騙されていたのだと知れば、長次と云えどやはり失望したのかもしれない。その腹癒せという事もある。
灯りを手に厠の外へ出れば、空に散る星々が綺麗に見えた。長次を信じるべきか。疑うべきか。そもそも、私は疑う事なんて出来ない。そうだ。信じる事しか出来ないんだ。長次は唯、私と話をする為に、他者から疑われ難い場所――出会い茶屋を選んだんだ。きっとそうだ。
室に戻れば、仙蔵と文次郎が仲良く――ではないが、寝ていた。取っ組み合いが続いていたのだろう。文次郎の夜着が所々裂かれている。此れは後で事務の小母ちゃん辺りに怒られそうだ。仙蔵も腕に引っ掻き傷を残していた。蚯蚓腫れになっていて、とても痛そうだ。
「……私も、男に生まれれば良かった」
仙蔵、文次郎、伊作、留三郎、小平太、そして長次。皆と過ごしてきた日々を思い返すと、思わず口にしてしまう。男であればこんなにも悩む事などなかっただろう。友と――いや、親しき友と思っているからこそ、何度と、男として生まれてきたかったと思ってしまう。
「おやすみ、仙蔵。文次郎」
仙蔵の文については明日、考えよう。長次との一件を落着させるまでは筆を手に出来無さそうだ。
上掛けを仙蔵と文次郎の腹に被せ、私は仙蔵の隣に寝転び目蓋を閉ざした。