他に非ず

思ってしまったのだから仕方が無い

 揺らぎ俯く栢丸――いや、みつねと言うべきか――彼女の視線に、俺は口にしてはならない事だったのだと知った。五年間と数箇月を男として過ごし、俺達を偽り続けてきたのだ。だが、栢丸は友だ。俺にとっても、皆にとっても、それは揺るがない事実だ。
 失望したのではないだろうか。友では無くなってしまうのではないのだろうか。そんな栢丸の心内が見えてくる。

「俺は、今知った事を誰にも話さない」

 くノたまとしてではなく、性を偽って迄、忍たまとして振舞わなければならない何らかの理由があったのだろう。騙す為にしては時は長く、付き合いの深さが栢丸を疑う事なかれと俺に説き掛ける。
 腕を掴めばやはり細い。だが、女のものにしては均整のとれた腕。俺の言葉に遠慮がちに面を上げた栢丸――いや、みつねは女そのものの面をしていた。引き寄せれば容易く腕の中に納まるみつねの身に、俺は抱きたいと、抱いてみたいと思った。今までに抱いてきた女の誰よりも澄んでいる瞳に、どのように鳴くのか見てみたいと思った。

「長次っ」
「こんなにも……華奢なものだったとはな」

 小さく肩を震わせたみつねが可愛らしい。成る程。仙蔵が惚れるわけだ。

「……此処で話すには危険が伴うだろう。俺のような者がいるかもしれん」

 一度見破ってしまえば何と可愛らしい。何時の事だったか、栢丸の拳を顔面に受け鼻から血を流した記憶がおぼろげになっていくようだ。身を放してやると俺はそっとみつねの耳元へ声を宛てた。身を仰け反らせたみつねの腕を再度掴み、しっかりと固定すると、一つ。

「明日の授業の後、花香の店で話を聞こう。栢丸の部屋に迎えに行くから準備して待っていてくれ」

 最後に一つ。「他言は決してしない」と口にし、俺は未だ不安を纏うみつねから離れた。仙蔵には悪いが、興味を持ってしまったのだから仕方が無い。心まで取ろうとは思わない。唯、一回だけでも良い。抱いてみたいだけだ。