姉上はぼくのもの

 きっと、姉上はぼくの事を可愛い弟と思っている。姉上に優しくて、何でも言う事を聞いて、沢山甘えて、姉上だけの可愛らしい弟を演じてきたぼくは、立花先輩を出し抜く策を投じた。行き成り引っ付いて来て姉上を掻っ攫おうとする立花先輩になんか負けられない。姉上を娶るのはこのぼくなんだ。血筋を大事にする笹山家だから、ぼくがしっかりすれば父上も姉上との婚姻を認めてくれるに違いない。ぼくはその為にも姉上の心をぼくにしっかりと向けさせなければ。ぼくは想いを込めて、姉上に文を出す事にした。五年間も姿を隠して生活してきたのだから、きっと卒業迄見付かりたくない筈。見付けられたらぼくに接吻してくれる約束だけど、きっと姉上はがっかりしてしまう筈だ。だから、ぼくは姉上が気持ち良く卒業出来るように荒捜しするのをやめた。きっと今頃、姉上は荒捜す立花先輩の事が嫌いになってるだろうなあ。立花先輩って強引過ぎるんだよ。みつねだなんて、姉上の事を呼び捨てて。普通、みつねさんだろう。もうちょっと、姉上の気持ちを考えるべきだよね。あー、ぼくってなんて姉上想いなんだろう。

「兵太夫くーん、ご実家から文が届いてるよー!」
「ちょ、ちょっと、小松田さん! 大きな声で喋らないでくださいよー!」
「うん?」

 立花先輩の耳にでも入ったら厄介なんだから。何でこういう時に限って小松田さんはぼくの願いとは正反対の事をしてくれるのだろう。不思議そうな顔をする小松田さんから文を引っ手繰ると、ぼくは辺りに立花先輩の気配が無い事を確認して部屋に戻った。文机に向かってはらりはらりと文を開くと、姉上の綺麗な字がぼくの目に飛び込んできた。
 次の休みの昼頃に、町の「松風屋」という茶屋で待ち合わせ。行き帰りは別々である事。立花先輩には内緒な事。他にもぼくに対して優しくて、でも厳しい姉上の想いが綴られていた。立花先輩に内緒って事は、やっぱり姉上は立花先輩の事、好ましく思っておられないのかも。ぼくとの逢瀬を楽しみにしてくれている姉上の心内が見えた気がした。
 どうしよう。これじゃあ、今日の作法委員会活動、まともに出られないよ。ついつい顔に出ちゃうじゃないか。しかも、立花先輩よりも一足先を歩いていると思うと尚更。あーあ、早く次の休みになって欲しいなあ。大川学園の外で姉上と待ち合わせるなんて、本当に恋仲みたいで、ぼくは同室の三治郎が部屋に入ってきていた事にすら気付かなかった。

「姉上ーっ」
「どうしちゃったの、兵ちゃん」
「姉上が好きだー!」