「姉上ー!」
「こらこら、お茶が零れてしまうでしょう」
「兵太夫もまだ姉離れはしていないか」
一瞬にして言葉を失った。先まで、兵太夫の姉とはどのような女かと余裕を持って構えていた筈だというのに。この俺がまさか、言おうとしていた言葉を失う程に見惚れてしまうとは。兵太夫が見せたくないわけだ。兵太夫を抱き留める姿に慈愛が溢れている。俺程では無い真っ直ぐな髪のさらりと落ちる音に、思わず喉を鳴らしてしまった。
「みつね、兵太夫。好い加減に離れなさい。客人に失礼だぞ」
「ごめんなさい。さ、兵太夫、姉上から離れて。後でうんとお話を聞いてあげるから」
「はあい」
しなやかに動く手。薄らと傷が残る指先。お盆を運ぶ姿は無駄な動き無く、女性らしい嫋やかさを備えていた。ふと見詰めていれば、視線が交わり、喉から額に掛けてぐっと押し寄せる熱を感じた。目元や頬に乗る笑みに、胸を殴られたような感覚が俺に襲い掛かる。
「みつね。此方の客人を知っておるな」
「はい、存じております。六年い組の立花仙蔵さんですよね」
「ああ」
声掠れをしていたかもしれない。俺らしくもない。手に薄らと汗が滲む。
「申し遅れました、わたくし、兵太夫の姉のみつねと申します。兵太夫が委員会でお世話になっているそうで」
鈴の声。その頬へ手を伸ばし腕に抱けば、貴女はどんな反応をするのだろか。想像出来るようで出来ない。初めて、女というものを見た気がした。何度と、様々な女というものを見てきたというのに、初めて知った気がしたのだ。
手に入れたい。
何故か、柄に無く、想ってしまった。恋というものをしたのだ、俺は。