食わぬ顔の下

友は意外にも一途だった

 くノたまには六年生が存在しない。存在するのは五年生までだ。そう教えてやると、兵太夫は目を丸くして詰め寄ってきた。くノたまの六年生に姉が居る事。姉は時に厳しくもとても優しく、俺の女装よりも綺麗なのだと。姉自慢を口に並べる兵太夫の目の輝き様は、目を見張るものがあった。
 ならば見てみたいものだ。そう口にすれば、苦い顔が俺に向く。自慢するくらいなのだから見せろと思ったが、兵太夫にとってその姉は本当に大切な人なのだろう。だが、俺が一目見れば、くノたまのどの者か分かるかもしれないと口にした途端、渋々ながらもお願いしますと頭を垂れてきた。折角、大川学園に入学したのだから、在学中に姉を見付けたいのだろう。
 俺の女装よりも美人な兵太夫の姉。ならば、あいつも誘ってみるか。
 長屋の廊下を曲がり、六年の室が並ぶ廊下を真っ直ぐに進む。すると、機嫌の良さそうな鼻歌が聞こえてきた。栢丸のものだなと分かると、直ぐに機嫌の悪そうな低い鼻歌に様変わりした。

「機嫌が良いのか悪いのか分からん鼻歌だな」
「仙蔵も食うか?」
「ああ、一つ貰う」

 栢丸の隣に座り、寄越してきた串団子に噛み付く。仄かな甘みが口に広がった。なかなか美味い団子だ。後で栢丸に場所を聞こう。

「なあ、栢丸」
「うん?」
「夏休みに笹山の家に行く事になったのだが、お前も来るか?」
「へえ、笹山の家に――って、はあ!?」

 何故、驚く。何故、立ち上がる。とても心外な顔を向け見下ろす栢丸に、俺は呆気に取られた。

「そんなに驚く事ではないだろう」
「あ、ああ、確かに。いや、違う。私の聞き違いだったんだ、済まん」

 何を聞き間違えたというのだ。文を読んでいたわけでも無いだろうに。

「笹山兵太夫に姉が居るらしい」
「……へえ」

 気乗りしない返事だな。少しは女に興味を持て。

「俺の女装よりも美人だそうだ」
「……へ、へえ」

 何なのだ、その妙な相槌は。俺の女装が美人では無いとでも言うのか。散々、仙子になって頭を撫でろだの、慰めろだの言っていたというのに。気に食わん。まあ良い。主旨は兵太夫の姉だ。

「会ってみたいと思わ――」
「思わん!」

 そうだ、栢丸には想いを寄せる女が居たのだったな。ならば、仕方が無い。俺、一人で行くか。