ましい友人の

温かい季節だというのに、私の心は寒くなる

 初学期も後僅か。少し短い夏休みが来る時期になった。長屋の廊下でお茶と団子を口にする私は、小さく鼻で歌う。兵太夫はいろんな人に姉、笹山みつねの事を聞き回っているらしい。山本シナ先生からこっそりと聞いた情報だ。まだ、見付けられていないのだろう。嬉しいような、でも悲しいような、私の心に複雑な情が入り混じる。
 兵太夫にとっては姉に裏切られたと思っているかもしれない。兵太夫が入学する前にいろいろと学園でのお話を聞かせてあげていたから。

「機嫌が良いのか悪いのか分からん鼻歌だな」
「仙蔵も食うか?」
「ああ、一つ貰う」

 私の食べ掛けで済まないけれどと一声添えて差し出す。串に刺さった二つ目の団子に仙蔵は躊躇い無く食い付いた。残る一つは私が食べる。やっぱり、山道に入る手前の茶屋の団子は美味しい。また買って来よう。

「なあ、栢丸」
「うん?」
「夏休みに笹山の家に行く事になったのだが、お前も来るか?」
「へえ、笹山の家に――って、はあ!?」

 思わず立ち上がってしまった。笹山というのは、きっと兵太夫の事だよね。笹山という名は私の他には兵太夫しかこの学園に居ない筈。

「そんなに驚く事ではないだろう」
「あ、ああ、確かに。いや、違う。私の聞き違いだったんだ、済まん」

 お茶を飲んで一息吐く。仙蔵の顔を盗み見てみると、仙蔵は空を見上げながら少し楽しげに見えた。

「笹山兵太夫に姉が居るらしい」
「……へえ」
「俺の女装よりも美人だそうだ」
「……へ、へえ」

 何を話したの、兵太夫。私、そこまで美人じゃないんだけど。仙子ちゃんの方が美人ですから、たったそんな理由で来るなんて言わないよね、仙蔵。頼むよ。

「会ってみたいと思わ――」
「思わん!」

 兵太夫だけならまだ何とか出来ると思っていたのに。何て、疎ましい友なのだろうか。貴重な休みなのだから、実家に帰って親孝行しろ。私はにこやかに済まないなと口にして、茶を飲み続けた。