弟の兵太夫が入学してきた。ちゃっかり者で賢い兵太夫の事だから、私と同じい組になるのかなと思っていたけれど、予想は外れに外れ、まさかのは組になった。――と聞く。は組は個性派が集まる組と言われ続けているので、確かに兵太夫は少し変わっている子なのかもと、思い当たる節を幾つか並べては自分で納得してしまった。
あの文が来た日以降の春休みは、兵太夫が来ても大丈夫なように私なりに下準備を進めていた。先生方にくれぐれも話さぬようお願いした。そもそも、笹山みつねは居ないのだと。これについては、次の長期休みの時に兵太夫に説明付ける予定。
でもその前にやらなければならない事がある。兵太夫に私の今の姿を見せて、反応が無い事を確認しないと。少しでも気掛かる顔をしたら、今後の計画を考え直さないといけないから。
「仙蔵、居るか?」
思い切って、作法委員会に突入してみた。兵太夫は作法委員会に入ったと、仙蔵から聞いていたから。あの仙蔵に兵太夫を任せるのは少し気が引けるけど、兵太夫が選んだのだから仕方が無い。作法委員会を突然作った先生を恨むしかないかな。
「何だ、栢丸か。今は委員会活動中だぞ」
「暇だから遊びに来てやった」
「帰れ」
「まあまあ、少しくらい良いだろう?」
作法委員会で使用している室はとても良い室で、奥が雪見障子となっている。仙蔵の脇から顔を出してきた四年生の綾部喜八郎に気前良く挨拶すれば、のんびりとした声で挨拶が返ってきた。綾部に続いて見た事の無い一年生が一人と、お目当ての兵太夫が仙蔵の足元から顔を出してきた。井桁模様の装束に身を纏う兵太夫は、とても可愛い。思わずにやけてしまいそう。いや、駄目だ。今はお姉さんではなく、私は男。六年生の先輩なのだから。
「新入りか?」
「あ、はい。僕は黒門伝七です」
「笹山兵太夫です。先輩は?」
よし、気付かれていないみたい。
「私は伏見栢丸。仙蔵の悪巧み仲間だ――痛っ」
「少しくらい遊んでやったぞ。さ、帰れ」
仙蔵からの手刀を額に食らってしまった。もう少し兵太夫とお話ししたかったけれど、仙蔵の切れ長の目で見下ろされては、邪魔をしている身なので何も言えない。
渋々――というか名残惜しく立ち去る事にした。ああ、もう少しお話したかった。作法委員会に立候補していれば、今頃、兵太夫と一緒に委員会活動が出来たのではないだろうかと思うと、とても悔しい気持ちになる。何故なら、作法委員会を蹴ったのは私なのだから。拾った、というよりも受け止めざるを得なくなったのは仙蔵で、当時、仙蔵も面白いかもしれんと乗り気になっていた。兵太夫が入るなら私が作法委員会に入って委員長を務めたのに。
いや、でも、一緒の委員会となったら、兵太夫に見付かる可能性が大きくなってしまう。会えるのは嬉しい事だけど、見付かってはいけないのだから、会わない方が良いわけで。
「とっても複雑だ」