20221110
期末試験の一科目を終えたアウローラは、教壇側の壁上部に掛けられた電波時計に目を向ける。あと二科目終えれば本日の試験は終了となるのだが、アウローラは試験よりも国会に列席しているであろうイグニスのことが気に掛かっていた。
「あーあ、もっと食べたかったなあ」
「どうしたの、アル」
「んー、ちょっと美味しいものを食べるタイミングを逃してしまってね。……一欠けらじゃもの足りないのよね」
試験が始まる前に、アウローラは二年生の教室から離れ、ノクティスの居る一年生の教室へと顔を出していた。その時に、ノクティスが頬張るパイを見て、「私のは?」と詰め寄るも、「これで最後」とほんの一口分を口の中に放り込まれたのだが、あまりの美味しさに何度と味を思い出しては物足りないと悶々としてしまうのだ。
「ほんと食いしん坊さんよね、アルって」
これあげる、と後席のクラスメイトに一粒キャンディを貰い受けても尚、アウローラの視線は時計に向いたままだった。
アウローラ・フェリクス。先々月に十七歳になったばかりのれっきとした女子高生であるが、ノクティス王子を守る親衛隊の一人でもある。ノクティスが無事に登下校しているか確認し、いざとなれば直ぐに駆け付けるのがアウローラの仕事であった。アウローラの母は彼女が幼い頃、ノクティスの乳母をしていた。要するに、アウローラとノクティスは乳兄弟の関係であり、母亡き今もその関係は続いていた。故に、イグニスとも付き合いは長い。
「うん。あとで電話しましょう」
後席のクラスメイトへと振り返り「アメ、ありがとう」と言ったと同時に二科目めの予鈴が鳴った。
帰りのHRを終えたアウローラは教室を離れた瞬間に携帯電話に触れ耳に宛がう。二回のコールの後に、聴きなれた声がアウローラの名を呼んだ。
『どうした、アル。ノクトに何かあったのか?』
「ノクトは健康です。何事もありません。ねえ、イグニス、私もパイが食べたい」
『ああ、あれか。ノクトから貰わなかったのか?』
「貰ったけど、たったの一口だったの。ちゃんと丸々一つ食べたい」
言い切った瞬間に耳に伝わるイグニスの息遣いは、どこか落ち着きあるものの嬉しそうに聞こえた。
『次作ったら一つキープしておく』
「うん、絶対よ! ところで、イグニス、今日はノクトのところに行くの?」
『制服のボタン直したからな。行くが――お前もか?』
「イグニスが行くなら行くわ。国政状況聞きたいからね」
『分かった』
またあとで。イグニスの声は耳障りがとても良い。余韻に浸りながら、通話終了から遷移するホーム画面を見届け、アウローラは満足げに昇降口へ向かうのだった。
「あれ、ノクト、まだ帰ってないの」
「一緒じゃなかったのか」
「うん」
「昼飯は?」
「まだ」
「作るか」
「何か、イグニスってお母さんよね」
「何か言ったか」
「いいえ~何にも~」
「そこのナツメグ取ってくれ」
Simplenoteに放置しっぱなしだったもの。
(20161107 - 20221106)