20221106
隙間無く埋め尽くされた青のパーツが光に反射して虹色に映る。空の色だ。
「出来た……」
王の力。それはルシス国の王族にしか扱えない魔法の力である。それを今、ノクティスは手にしている。
「これがプロテス……」
小さな魔法障壁とも呼べるそれは、ガラスの如く透き通り空の青を見せる。とても綺麗なものだ。
「綺麗だね」
「触ってみるか?」
「うん」
ノクティスを覆うには今ひとつ頼りないプロテスだが、アウローラの興味を惹くには十分な大きさだ。指先でなぞるようにそっと触れる。じんわりと温かなものを感じたアウローラは驚きの声を小さく上げながら、指の腹で軽く叩いて見せた。
「温かい」
「……そうか」
「自分でも触ってみたらどう?」
「ん」
翳したままの手とは反対の手で、ノクティスは内側からプロテスの壁に触れた。確かに仄かに温かい。
「ねえ、ノクト。そのまま手を付けてて」
「あ? ああ」
「ほら」
球状の壁に手のひらまでは付けられない。だがある程度開いて、指先を壁に押し付ける。すると、アウローラの手が壁越しに重なった。
「大きくなったね」
「そりゃ、大きくなるだろ」
「おかしいなぁ。ついこの間まで私の方が大きかった筈なのに……」
「いつの話だよ」
戯け笑むアウローラは、ノクティスの乳兄弟である。今は亡き乳母の一人娘だ。母を失った後も、変わらずにノクティスの側で共に過ごしてきた、言わば家族である。
アウローラは口にはしないが、心内でノクティスの成長の嬉しさを噛み締めていた。母が見たかったであろうノクティスの成長を、アウローラはずっと見守り続けてきたのだ。母と姉という擬似とはいえ家族の愛を、アウローラはノクティスと共に育んできたのだから。
「もうちょっとしたら、アルを上から見下ろせるぜ?」
「私もまだまだ伸びますー」
「さっさと追い越してやるさ」
「何年掛かるかな?」
「掛けねーし」
「……あんまりすぐだと、私が困っちゃうよ」
「アル……」
ノクティスの成長が見られるのはとても嬉しいことだ。だが、時は戻ることはない。一瞬の幸せを知っているからこそ、時が愛しいと思える。
「アル……俺さ、高校行ったらここ出る」
「え、出るって」
「一人暮らしする」
瞬間、ノクティスを覆っていたプロテスが霧散する。細かい破片が光を反射しノクティスは当てがったままのアウローラの手を優しく掴んだ。
「後頼むな」
少年らしさの残る青年の笑顔を間近に受けたアウローラは、やることなすこと唐突なノクティスに苦笑しつつ、小さく頷いた。
「レギス様のお許しを得た後のことなら、だけどね」
「それなんだよなー……親父、ダメって言うと思うか?」
「どうだろう? でも、今までノクトがこうしたい! っていうことにレギス様が反対されたことってそんなにないと思う。いつもやってみなさいって、優しく仰ってくださってたと思うけど」
「親父より、イグニスだな」
「うん、そうね。イグニスの方が大丈夫なのかーってぐだぐだ言いそう」
どちらからともなく離されたアウローラの手に、ノクティスの手の感触が残る。温かく、少し固くなった手だ。男の子の成長は目まぐるしいなと、改めて感じた。
イグニスの時も置いていかれた。ノクティスにも置いていかれる。そんな行き場のない思いがアウローラにのしかかる。
「……置いて行かれるのはもう嫌だな」
Simplenoteに放置しっぱなしだったもの。
(20170118 - 20221106)