レンアイアラカルト
ムスペル王国を統べる国王スルトの持つムスペルの炎は全てを焼き尽くし、再生という言葉すら無にすると言われていた。ムスペルの炎に因って負わされた火傷は決して癒えることはない。だが、全身を蝕んでいた炎竜の力は淡く温かな光に包まれフリーズの身体を僅かながらも癒していく。胸、背、腕、脚。至る所に負っていた火傷の痛みは、今となっては感じなくなる程に癒えていた。
「だいぶ癒えましたね、フリーズ様」
「ああ。偏に貴女のおかげだ。アスカ」
アスカの手元から伝わる温かな光を見詰めながら、フリーズはそっと目を細め、そして閉じた。よく晴れた日の雪原を照らす陽光の温かさに似ていると、フリーズは胸内に秘める。露わとなっていた腕に当てられていた温かみが消え、目を開けると、上腕に捲り上げていた袖を丁寧に解き延ばすアスカのしなやかな手が見えた。
「浄化の力、か」
「フリーズ様のように勇ましい力はありませんが、こうして役立てることが出来てちょっと誇らしいです」
「初めて会った時、無力だと泣いてばかりいたというのに……よく笑うようになった」
ふと手を頬へ伸ばしそっと触れた途端、アスカの顔がみるみると紅く染まる。その様がまた可愛らしくもあり、フリーズは口を引き結び言葉を出すまいと飲み込んだ。アスカは妹フィヨルムの親しき友であり、そして信を置くアスク王国の王子アルフォンスの想い人でもある。惹かれる心はあっても、違えることはない。そう、フリーズはアスカに微笑むことで再び触れようとする己の手を下ろした。
「フ、フリーズ様、からかわないでください」
「そんなに恥ずかしがることもないだろう」
「私はフリーズ様の妹ではないのですよ? お顔が良いのですから、自覚なさってくださいっ。誰だって、そんなことされたら恥ずかしくもなります……もう、今日はこれでおしまいです!」
赤らんだ頬をそのままに背を向け室を出て行く彼女に「……触れることの意味も分からず触れたわけではないんだがな」と呟くと、フリーズは誰も居ないのを良いことに少しばかり大きめな苦笑を零した。
Title by tiptoe(20200131)