愛を騙る手足2


 今日はやけに苦味があるな。口にしたコーヒーをカップの縁から覗き込むと「いつもの焙煎士さんのじゃないの。ちょっとローストし過ぎね」と、俺の顔を見て察したのか、ナマエから苦笑が漏れた。
「たまには良いさ。深煎りも香りが豊かで俺は好きだよ」
 ナマエが淹れてくれるものは何でも美味しく思う。どんなものであってもだ。同じコーヒーを手に隣に座ってきたナマエから、コーヒーとは別の良い匂いがした。
「さっき焼いたの。いる?」
 一つ手にしてはナマエの口に運ばれる丸い形のクッキー。中央には苺と思われる赤いジャムが乗っている。
「これをいただこうかな」
 欠けたクッキーを持つナマエの手首を捕らえ、俺はそのまま引き寄せ食らい付く。ほんのりと甘い生地に、苺の酸味と甘味が俺の口の中に広がっていく。あまり好ましいとは言えない表情をするナマエに、俺は口寄せた。寄せようとした。だが。
「流れてやるものですか」
 俺の口元に手を添え阻む。
「君は相変わらず手強いね」
「あなたは相変わらず懲りないのね」
 手を離せば何も無かったかのようにコーヒーを口にする。そんな彼女が憎らしい。昔のナマエはとても可愛らしい反応を見せてくれたというのに。手に触れることが出来ても、欲しいと思う心には触れられない。
「……手強いな、本当に」