翫味する林檎


 いつみの手を左手に乗せ、右手で優しく撫でると途切れ途切れに小さな声が上がる。

「あ、の……三日月さん」
「いつみの手は温いな」

 決して美しい手ではない。人差し指と中指の付け根には小さな肉刺があり、手の甲は薄っすらと赤みを帯びていた。だが、数々の苦労を乗り越えてきたのであろうその手は、優しい感触を三日月宗近の手に残した。触れていたい一心で、ひたすらいつみの手を撫で揉む。柔らかく好ましい感覚に魅了されたのか、いつみの戸惑う声すら耳をすり抜ける。

「――月さん……三日月さん!」
「おお、どうした」
「どうした、じゃ、ありません!」

 ふといつみの顔を覗き込めば、赤々と染まっていた。

「はっはっはっはっ! いつみは利宇古宇のようであるなあ」
「りうこう?」
「今は林檎と言ったか。俺の生まれた時代では利宇古宇と呼んでいたのでな」

 いつみの跳ね上がっていた眉が落ち着き、三日月宗近の言葉に嬉々とした面を見せた。平安の世を生きた刀であるからこそ知る林檎の名に、いつみは先までの恥じらいを忘れ「何で利宇古宇が林檎になったんでしょうね」と笑って口にした。

「さあなあ。利宇古宇は食べたことが無い。詳しくは分からんので話せないが――」

 赤々と染まっていた頬に手を伸ばし、するりと撫でる。一撫でするだけで再び染まるいつみの面に小さく笑いながら、三日月宗近は目を細めた。

「この林檎の方が趣があって美味そうであるなあ」