残り香が消える頃
起き上がると隣に居た筈の彼はもう居なかった。広く高い天井にまで伸びる大きな窓からは、薄らと朝の光が射し込んでいて、私の肌を淡く照らす。
「声を掛けてくれてもいいじゃない……」
上体を起こしたと同時に落ちたのであろう、彼の上着。ベッドの上から手を伸ばし取ると、鼻先へと襟元を引き寄せた。彼の――エドガーの匂い。きっと、今の私にも移っているであろう彼の匂いが、私のちょっとした苛立ちを宥めてくれる。
残り香が消える頃にまた彼はやって来るのだろう。優しい笑みを面に乗せながら、懐に抱いた計り知れない情欲を当て付ける為に。堪らず、ぎゅっと抱き締めた肩には彼が残した赤い痕があった。
「もっと優しくしなさいよ……ばか」
Title by 悪魔とワルツ(20140327)