豆腐の日。

※月夜桜より


「何してるの兵助」
「あ、釘宮先輩」

 食堂の一角にて小皿に乗った豆腐と睨めっこをする兵助に、釘宮は話し掛けてみた。十を数えても、百を数えても一向に箸を付けないので痺れを切らして話し掛けたは良いが、豆腐から視線を外したのは一度切りの事で、兵助は再び視線を釘宮から豆腐へと戻してしまう。

「俺、豆腐好きに見えますか?」
「何よ急に?」
「端から見て、俺が豆腐が好きで好きでたまらない者に見えますか?」
「……別に」
「そうですよね!」

 何か吹っ切れたのか、先とは違ったにこやかな笑顔を向けてくる。微笑ましいその様に、釘宮も目を細めては苦笑を零してしまった。

「よく分からないけど、食べないの?」
「食べますよ、勿論。釘宮先輩も一緒にどうですか?」
「ふむ。……あー」
「は?」
「早く頂戴。ほら、あー」

 秋葵の乗る豆腐の天辺より醤油を落とすと、向かい席に座った釘宮が身を乗り出して口を開けている。

「くれないの?」
「あ……今、箸貰いに」
「一口だけで良いから、その箸で良いじゃない」

 親から与えられる餌を待つ小鳥の如く、まだかまだかと待つ釘宮に、兵助は仕方が無しと見て白い豆腐の壁を箸で切り崩した。醤油に絡め秋葵を沿え持つと、丁寧に空いている手を添えて釘宮の口へと運んでやる。

「ぁん、うん」
「うわ」
「ん?」
「あ、いや、何でも……ない、です」
「うん?」

 くノ一であれば可愛い表情や甘える仕草を見せるところであろうが、兵助の目の前に座す釘宮は違った。普段の通り、在りのままの表情、仕草で兵助の差し出した豆腐を口にする。その様が何とも無垢で、兵助には面白いと感じた。

「もう一口どうですか?」
「いいの?」
「要らないならあとのは俺が全部食べてしまいますけど」
「じゃあ、もう一口だけ頂戴。あー」
「はいはい」

 年上とは思えない親しみ振りと見せる表情に、兵助は思わず口元を綻ばせてしまった。