恋文の行方 e


 私と彼女と生徒の三人暮らし。家族と言っても過言では無い暮らし振りだが、「好い加減、結婚したらどうなの。あの娘も可哀想よ」と、近所のおばちゃんに言われる度に、私は何とも言えなくなるのだ。何とも想っていないわけではない。むしろ、その逆。好きで、愛しくて、時に抑えが利かなくなってしまう怖い思いさえする。
 だが、駄目なのだ。彼女は一人の女性であると同時に、学園では研究生――つまりは生徒なのだ。お互い、結婚の釣り合う年であれども、先生が生徒となんて。所謂、他の生徒の教育に悪い、だ。
 そんな想いをふつふつ頭の中で考えては重い息を吐いてしまう。

「土井先せ……じゃなかった。えと、半助さん」
「うん、何だい?」

 ああ、大丈夫。一年は組の事で悩んでいたわけじゃないんだ。苦笑で誤魔化しながら、私は可愛くて仕様の無い彼女に視線を向けた。利吉君には悪いが、彼女は私にとことん健気でとてもよく慕ってくれている。心配そうな表情から、ほっと安堵した微笑みも、全て私に向けられているものなのだ。

「恋文撃退法とかあります?」
「……え?」
「しつこい恋文を撃退する方法です」

 「これ」と出された紙の束。中に先程謝った利吉君のものもある。

「……燃してしまいなさい」
「はいっ!」

 笑顔一つで颯爽と竈に火をくべ、薪木と一緒に豪快に燃す彼女。私の言葉一つで即行動に出る彼女が、有る意味凄いと思う。

「大丈夫なのか?」
「何がですか?」
「いや……その文」

 背後から見下ろし眺める私に、きょとんとした顔で見上げてくる二つの眼。

「え、だって、半助さんが燃してしまいなさい、って」
「私はそう言ったが、君はどうなんだ?」
「私ですか? 私はどうでも良いです」

 潔過ぎる君が、実に好きだよ。じゃなくて、どうして私の言う通りにしてしまうんだって事だ。

「文に送ってくるくらいなら面と向かって言いなさいって思うんです。だって、ずるいじゃないですか」
「ずるい?」
「顔も見れない、声の調子だって分からない、ただの文章ですよ? 仙蔵君や三郎君からの文なんてただの悪戯だし、利吉さんなんか論外です!」
「六年の立花や五年の鉢屋からも貰ってたのか!?」
「恋文とは名ばかりの、悪文です。こんなんで私を貶められるとでも思っているのかしらっ」

 立花や鉢屋はともかく、利吉君は素直に想いを綴っていると思うぞ。

「きりちゃんや乱ちゃん、しんべヱちゃん達みたいに素直な文をくれれば良いのに」

 は組の良い子達の文は恋文じゃないだろう。全く、恋に疎いのやら、潔過ぎるのやら。

「なら、私が恋文を送ったらどうする?」

 言った瞬間、しまったと口を塞ぐが、当たり前ながら遅過ぎる仕草だ。徐にきょとんとした表情を私に見せ、ふと目元を緩ませ微笑んでくる。ああ、可愛い。

「それは凄く嬉しいと思います」
「ほ、本当に……?」
「だって、半助さんからのだもの」

 期待しても良いのだろうか。それとも、誘っているのだろうか。本当に君は、可愛くて、愛しくて、抑えが利かなくなってしまう怖い想いを私にさせてくれる。