恋文の行方 b


 これは何だ。ふと手にした封筒を裏返してみる。そして俺は言葉を失った。不安に思って、そっと中に仕舞われている紙を開いてみる。

「そんなところに突っ立ったまま、どうしたの? アイク――って、ああ」
「……何だ、これは」
「恋文ね」
「そういう事を聞いてるんじゃない」

 何故、あんたが俺以外の男から求愛されているんだという事だ。

「中を読んだのか?」
「それは、まあ……読まないと」
「どこの奴だ」
「あ、あのね、アイク。これには事情があって――ん゛っ」

 そんな事を聞きたいんじゃない。俺が聞きたいのは誰がこんなもんを送りつけてくるのか、だ。言葉を遮るように口を塞いでやれば、くぐもった声が耳に届く。そのくぐもった声は俺だけに話し掛けられるべき声。

「ア、イク!」
「何」
「何じゃないでしょう! もうっ、拗ねる程のものじゃないんだから」
「じゃあ何だというんだ」

 横から掻っ攫おうとする奴に嫉妬して何が悪い。

「これは、練習用の恋文よ」
「……何……?」
「だから、練習用。私に向けてじゃないわ……まあ、宛先は私だけど」

 手にしたままの、既にぐしゃぐしゃになり掛けている練習用と言われた紙を見る。確かに。呼び掛けられている名は、俺の全然知らない誰かの名だ。それも、男の名だ。

「これで分かったかしら?」
「すまん……俺はてっきり」
「てっきり?」
「いや、何でもない」

 嬉しそうにくすくす笑うその顔を両の手に抱え、再度強引に口付けた。その笑いも、その戸惑いも、全て俺のものだ。