今日は実に気分の良い日だ。空は晴天。シノンにとって気に障る者も、今日は早朝から街へ買出しに出向いていて居ない。今、この場に居る空間は、実に心地好いものだった。
レムがある提案を出すまでは。
「シノン」
「あんだ~?」
「膝が重いんだけど、ねえ」
「気のせいだろ」
ごろりと寛ぐはレムの膝上。質は好くないがそれなりにふかふかしている絨毯の上に、レムとシノンは寛いでいた。
「……ねえ、シノン」
「んー?」
「今日は機嫌が良いのね?」
「まぁな。五月蝿いガキ供も居ねぇし、邪魔してくる奴も今は遠い場所だしな」
顔を覗いてくるレムと視線がかち合う。
「シノンに悪戯しても良い?」
「は?」
「だから、悪戯」
笑顔で見下ろされては、流石に視線が泳いでしまう。普段、悪戯をしているのはシノンであり、受ける側のレムが悪戯をするなど珍しくて仕方が無い。
「あ、ああ。いいぜ?」
ある意味、良い事なのかもしれない。人に甘える行為の下手なあのレムが、悪戯すると自ら名乗り出ているのだから。
「じゃあ、後ろ向いて」
「何でだよ」
「言ったら悪戯じゃなくなってしまうでしょ。ほら、早く」
「仕方ねぇな……」
嫌そうな台詞は、気持ち次第で是にもとれてしまう言葉となる。
「おい」
「わぁ……シノンの髪って、やっぱり真っ直ぐなのね」
「……俺の髪に惚れたかよ?」
「そうね、髪にはね」
小さく舌打ちすると、背後からくすくす笑うレムの声が聞こえてくる。嬉しそうに悪戯してくるレムも悪くないなと思いながら、シノンは今の時を幸せだと感じた。
「お前となら、こんな時間も良いもんだな……」
「何の話?」
「先の話だ」
優しく梳かれる感触。触れてくるレムの指遣いが、とても心地好い。
「はい、出来上がり。今日は一日そのままで居てね」
「……ま、悪くはないな」
「でしょう」
ゆったりとした日には似合いの緩めの髪縛り。
「今度、俺もやってやるよ」
「私はそんなに長くはないから――」
「伸ばせよ。俺様が髪整えてやるって言ってんだぜ?」
「ふふっ……はいはい。気が向いたらね」
満足気に微笑むシノンを見て、レムは穏やかに微笑み返した。
シノンは知らない。後ろ髪が妙に女性らしい整いだという事を。シノンが知るのは、家族が揃う時頃。
(20071031)