逞しい胸板。男の中の男を象徴した、無数の戦傷。低く通る声は大人の色を含ませ凛と気高く立ち居振舞う魅姿は、男女問わず眼を惹いた。だが。

「おい」
「何ですか鷹王」
「お前……俺を何だと思っている」
「鷹の中の王」
「そうじゃなくてだな……」

 鷹の民の中では憧れの存在とも言えた。ラグズの中では力ある者。ベオクの中では大きな存在だとも言え、見惚れられる事は常だった。だが、背に乗せたこいつだけは違う。

「あ、ほらほら、あそこです」
「俺の話、聞いてるか?」
「聞いてます。だから、鷹の王様ですって。あ、もう少し」
「こんなものくらい、俺が採ってくるだけで良いだろうに……」
「折角だから自分で採りたかったんです。あ、採れた」
「これで満足だろ、レム」
「ええ。ありがとうございます、鷹王」

 断壁に実る紅い果実。誇り高き鷹の王はたった今、平民に使われていた。端から見ればどのように映るのだろうか。ふと気になる。

「流石に王子は食べた事ないでしょうね」
「そうだな。俺ですら知らなかったしな……美味いのか?」
「はい。美味いですよ。鷹王も食べてみます?」
「……天幕に戻ったらな」

 翼を使われる度に必ず一回は問うてみる気持ち。だが、使われる事に苦にも嫌にも思えないところをみると、今の立場を気に入っているのかもしれない。