「ちょっと、貴方」
視界に入る漆黒の騎士。風に靡く金髪から覗かせる視線は真っ直ぐと前方へ狙いを定めていた。たった一突きで地に崩れ落ちる敵兵を見ながら、腕を組み上げ青年の応答を待つ。
「貴方よ、黒一色のお兄さん。無視しないでくれるかしら」
振り向いた顔は無表情だが、馬上から見下すその眼は気品と生真面目さを彷彿させる。
「いつもいつも私の目の前を颯爽と駆けては紳士を気取るの、やめて欲しいのだけど」
「……此処は戦場だ。そのような甘い気持ちで貴女を守っているわけではない」
「だったら不必要だわ。貴方に守られる筋合いは無いし、あまり私を見縊らないで欲しいものね」
「……私は、ある人の命によって貴女の警護に務めている」
瞬間脳裏に浮かんだのは腹底の喰えない一人の青年。
「どっかの図々しい吟遊詩人さんね。……いいわ。私から彼に言っておくから、金輪際、私に構わないで」
女性だから守られるという固定観念が癪に障るという事よりも、貴族という上流社会に引き摺られていく感覚に嫌悪を示した。エルフィンと名乗る吟遊詩人に出会ってからというもの、環境が著しく変わってしまったからだ。
「ペリネット」
直ぐ様背を向け陣営元へ歩み出すと、初めて呼ばれた名に思わず振り向いてしまった。
「私が陣営まで送ろう」
「……名前も知らない人に送ってもらう理由が何処にあるって言うの? 結構よ」
「……あの方の仰った通り、頑固者だな」
「きゃっ!?」
強引にも腕を掴み上げられ、黒騎士の前席に収まった。
「貴女を守る事で救われる命が沢山ある……これが理由にならないか?」
「……信用して欲しいなら、名乗るべきじゃないかしら。貴方が私を知っていて私が貴方を知らないなんて、癪に障るわ」
鞍の縁をしっかりと掴み、草原を駆ける馬上の揺れを最小限に抑えながら、後方にあるであろう無表情な青年に鋭く言い放った。
「エトルリア王国騎士軍将……パーシバルだ」
耳元で呟かれたパーシバルの声は、風に塗れどこか清々しく聞こえた。
「最初からそう言えば良いのよ。騎士が民を守るのは義務なのだから」
後方から微かにだが、鼻で笑う声がした。
(20070101)