「クレイン……頼みがあるのだけど」
周囲に目を配らせながら、ペリネットはクレインの居る天幕に忍び入った。
「もしや、また……かい?」
「その、また……よ」
顔を見合わせた途端、同時に溜息が洩れた。クレインは柳眉を寄せ、右の手で地を示しながらペリネットに座るよう促した。
「クラリーネが申し訳ない事を……」
「謝らないで。好意を持っての事だから」
「だが、迷惑を掛けてばかりいる……」
従姉弟という繋がりを知ってからというもの、「淑女の嗜みを伝授して差し上げましてよ!」と、声高らかにクラリーネはペリネットに付き纏うようになった。
「でも、そうね……毎度クレインを頼る事になってしまうのだから、迷惑になってるかもしれないわね」
「そんな事!」
クレインにはクラリーネを大人しくさせる力がある。それは世間体で言う兄妹仲睦まじいという事だが、大抵は妹に振り回されて尻拭いをする兄のようなものだった。だが、クラリーネは兄であるクレインには忠従である。
「迷惑だなんてとんでもない! むしろ、頼られて嬉しいくらいだよ」
クラリーネもこんな気持ちを抱いているのだろうか。ふと、クレインは少し年上の従姉弟に微笑んだ。
「……兄妹ね」
「何? どういう意味だい?」
「今のクレイン。クラリーネと同じ表情よ」
くすくす笑うペリネットはとても綺麗で、叔母の肖像画を思い出す。不思議な気持ちにさせる、笑顔の似合う女性。
「なら、僕も甘えて良いかな?」
(20060701)