数日前からペリネットの周りに気配が付き纏った。それは小さな物音を立てては寄り、十歩以内には近寄って来ない。痺れを切らして出て来いと呼び掛けてみるが、頑なに出て来ようとはしなかった。
「……出て来ないなら、私から出向くわよ?」
ゆっくりと一歩一歩音を立て、気配の騒ぐ場所へ進んだ。木の裏に居る。気配の在り処を確信したペリネットは、腰に携えていた手斧を握り幹へと打った。
「うわぁっ! 何すんだっ!?」
「貴方、いつも私の近くに居るけど何かご用?」
「なっ、何もねえよ!」
「だったらどうして私に付き纏うのかしら?」
相手が逃げぬよう、ペリネットはにこやかな笑みで接した。幹裏から跳び出て来たのは同い年くらいの青年。ぐっと奥歯を噛み締め黙りを決める相手に、ペリネットは手持ち無沙汰に手斧の背を手の平に打つ。
「待った!」
「待った無しよ。数日前から引っ付かれてるのに、これ以上待てると思う?」
「分かった、言う! 言うからそれ締まってくれ!」
打てば跳ね返ってくる表現に、ペリネットは苦笑を漏らしながら手斧を戻した。
「で、何?」
「用っていうもんじゃないんだけどよ。お前……海賊か?」
「……まさか、それだけ?」
「斧使ってるからそうなんだよな?」
海賊か否かで付き纏われていたのかと知ると、何故か肩が重く感じた。呆れて言葉が出ないとはこの事かもしれない。
「私は医者よ。ちなみに、数年前までは海運業を手伝っていたわ。これで満足?」
「あ、ああ、じゃあなっ!」
名前も交わす事無く走り去ってしまった青年の背を見送りながら、ペリネットは息を細く吸い込みゆっくりと吐いた。
「……変な人」
「ばあちゃん!」
「何じゃ、ヒュウかい」
息を切らしながら走り寄って来た孫に、ニメイは本を読む手を止め孫の言葉を待った。孫から寄って来る事はそう滅多にある事ではない。
「ばあちゃんが、言っていた、嫁候補」
「ああ、薄紫髪の娘かい?」
「じゃなくて! あっちの――」
「銀髪の娘」
「そう、それ!」
ようやく呼吸を落ち着かせたヒュウは、今先程本人に聞いてきた事を祖母に説明した。
「それがどうしたんじゃ」
「は? だから、彼女、闇魔道士じゃないって――」
「はぁ……お前は本っ当に馬鹿じゃな……」
「どういう事だよ!? ってぇ! 殴る事ねぇじゃんか!」
「いっちょ前の理魔道士なら、自分と同じ匂いを感じ取って来んかい!」
後、ヒュウはペリネットの本性を見極める為に、再び付き纏い始めたという。
(20060629)