彼はいつだって彼女のことばかり気に掛ける。そこに愛は無いとしても決して切れることの無い絆があるから、私は彼の恋人で居て良いのか分からなくなる。
傍に居ろと言われた筈なのに、私に絆されて照れ隠す顔だって知っている筈なのに、彼は彼女――ウンディーネの姿を探している。
「……やめちゃおうかな」
そんなに気になるならウンディーネを彼女にすれば良い。と拗ねた心が我慢出来ず、思わず弱音を零してしまった。
傍に居るのに、彼の視線は私には向けられない。ちょっとしたデートなのに。二人きりで居られる僅かな時間だというのに。零した弱音も拾ってくれすらしない。そんな彼にやきもきする私があまりにも滑稽に思えて、泣きそうになる顔を伏せた。
やめちゃったら――彼の彼女であることをやめたら、彼は私を気にしてくれるだろうか。ううん。気にしないで、今のまま、ウンディーネの姿を探すのだろう。
「……ねえ、やめちゃうよ?」
彼に必要なのは傍で見守ってくれる彼女ではなくて、きっとウンディーネのような互いに高みを目指す存在なのだろう。
彼の為に可愛い水着を選んで、彼の為に可愛く在ろうと傍に寄り添ってきた。だけど、それも今日でお終いかもしれない。私の心がもう耐えられそうにないから。
「ボルカノのバカ」
私の足が立ち止まったことにすら気付かないで先に行く彼は、私が傍に居ることすら気付いていないのではとさえ思う。
このまま人混みに紛れてしまって、彼の後ろ姿も見えなくなったら、その時こそ「さようなら」と口にしよう。
「シエナ、何している」
「……何でそこで振り向いちゃうかな」
「……泣いているのか……?」
普段の澄ました顔をどこにやったのか、私の目の前に戻って来たボルカノは慌てた表情を見せてきた。そういうことするから、私は未練がましく彼のことを嫌いになれないでいる。涙を拭ってくれる大きな手がとても優しくて、困った顔で覘いてくる彼の視線が私だけを見てくれて、好きという感情を再確認させられる。
彼と彼女の間には愛は無い。元は師弟の関係。そう分かっていても、不安に思ってしまうのは、私に自信が無いからだ。ボルカノの彼女であるという自信が、無いんだ。
もう一度だけ彼から離れたら、彼は私が居ないことに気付いてくれるだろうか。これが一度きりのものでないことが分かれば、私はもう少し自信を持って彼の傍に居られるかもしれない。
「ウンディーネばかり見てると、私、いつの間にか居なくなってるんだからね」
もう一度振り向いて欲しいのか、振り向かないでいて欲しいのか、分からない。けれど、この「シエナがあいつの下へ行きたいと言っても、俺は絶対に手放したりなどしない。行かせない」とどこか誇らしげに笑う彼は本当のことだと、それだけは分かった。今はそれだけで十分だ。