「ねえ、どう? 可愛い?」
肩見せフリルレースのトップから覘く谷間をそのままに、エナは日陰に座るブルーへと顔を近付ける。目が合っても表情の変わらない彼は女の子の水着姿に何の興味を示さない。無反応のブルーを前に、エナは腰に手を当てながら両サイドを紐で編んだレースアップな清楚且つ大人の色気あるショーツをアピールする。
「可愛いでしょう?」
「水着がか」
「それもそうなんだけど、そうじゃなくて」
「俺に可愛さの同意を求めるな」
「可愛い水着、私に似合ってるでしょって聞いてるの!」
「言わせようとしているの間違いだろう」
「あーもう! ほんっとうに朴念仁!」
「何も間違ってないだろう」
常夏グレートアーチの浜辺で繰り広げられるエナとブルーの言い合いは日常のことではあるものの、海の湿気と日差しの強さにヒートアップすることはなかった。ハイビスカスの花を添えたココナッツジュースを飲むブルーの隣に、エナは不機嫌な表情のままドカッと座る。パラソルがもたらす日陰は思いの外快適で、エナの不機嫌をやんわりと癒していった。
「思い返してみればそうよね。シュライクの本屋でもグラビア誌を無駄な本呼ばわりしていたし、女の子に見向きもしないでルージュルージュうるさいし」
「無駄だろう。女の裸を見て何が得られる」
「あなたには性欲ってもの無いわけ?」
「誰にでもあるものをあえて聞くな」
「誰にでも――……え?」
何を驚く。と顔に載せるブルーを前に、エナはブルーの言葉を頭の中で繰り返した。性欲は誰にでもあると目の前の朴念仁が肯定したのである。
「ブルー、性欲あるの……?」
シュライクの本屋での一件はもちろんのこと、日頃様々な衣服に袖を通してはブルーに見せびらかすエナにも、行く先々で出会う女性達にも見向きしないブルーが、自分にも性欲はあるという意味する言葉を言った。到底信じられないエナはブルーの変わらない表情をじっと見つめたまま「もしかして、それ、冗談?」と聞く。
「そもそも、性欲とは性器への快感を満たそうと興奮するものだ。何に惹かれ快感を得たいと思うのかは人に因りけりだろう」
「うわあ……あーそうですか。そうですよね、私では役不足よね。どんだけハードル高いのよ」
白の肩見せフリルトップスに肌をチラリと覗かせるレースショーツなエナの水着姿は行き交う男性の視線を釘付けるというのに、隣に座る男の視界には平然と映されるのだ。何をしたらブルーを翻弄出来るだろうか、女として何が足りないというのか、と悔しそうに悩み続けるエナを前にブルーは今日も今日とて鼻で笑う。女として魅力が無いと言われたわけではないというのに、ブルーのその態度が「興奮させるに足らず」と言っているように思え、エナの胸内を大きく抉った。
「羽織っていろ」
「わっぷ、ちょっと、何す――」
「あまり見せびらかすな」
エナの顔面にブルーの上着が押し付けられる。術士と言えど均整のとれた身体を持つブルーの上着はやはり男性のもので、エナが羽織るには大分大きいものだ。押し付け際に立ち上がったブルーがエナへ振り返ると徐に口角を上げた。
「その方が良い」
「……は?」
ブルーの上着を抱えたままのエナは、ブルーの何かを満たしただろうことは分かったものの、その何かが分からず呆けてしまった。
「え、何、どういうことなの?」
「宿命が無ければ溺れていたかもな」
「ちゃんと話してよ!」
「二度は言わん」
飾らない素の表情で、他ではなく己のものを抱えて、ただただ真っ直ぐと見上げてくる。そんなエナの姿にブルーは今までに何度と戒めた言葉を胸内に言い聞かせる――溺れまい、と。