アスカの指先がカリッと首筋を軽く掻き撫でる。朝起きてからずっと気になって仕方のない箇所であり、寝ている間に虫にでも刺されたのだろうかと気にしないように努めていたはずなのだが、気付けば何度と掻いてしまっていた。
「虫刺されか」
往診中にまで何をしているのだろうか、と顔を瞬時に赤らめたアスカに、フリーズは小さく笑う。すっかりと消えた火傷痕があった場所を擦りつつ、フリーズはアスカの様子を不思議に思った。
「そうみたいです。ちょっと気になってしまってついつい触ってしまうんです。……赤くなってそうだなあ」
「そうだな、少し赤い」
「あ、あの、フリーズ様、近いです。そんなまじまじと見ないでください」
「すまない。虫刺されというのがどうも珍しくてな」
「……珍しいのですか?」
ニフルの気候下で生息する虫は限られており、王族もまた常人に比べると体温は然程高くはない為、虫に刺されるということが特段珍しく感じるのだった。顔を近付けアスカの首筋をじっと見ていたフリーズは、その下に――服に僅かに隠れ見える紅い痕を見付け、「ああ」と声を漏らしながら苦笑した。
「フリーズ王子、何を!」
咄嗟の声に振り向けば、開いたままの扉に手を掛け今にも飛び掛かりそうな勢いあるアルフォンスの姿があった。
「アスカ、往診は終わりかい?」
「はい、終わりましたけど……アルフォンス?」
「フリーズ王子、後程、話があります。アスカ、こっちに来て」
庇うようにアスカを連れ出したアルフォンスに、フリーズは「何も問題は無い」と宥め掛けるも、その声は届かなかった。
握られた手の強さにアスカは少し慄いていた。いつもならば優しく触れてくれるアルフォンスの手が、今日はいつになく強引で、その力強さに決して放すまいという気迫を感じる。手を引き先を進むアルフォンスは、部屋を出てからずっと振り返りもしなかった。連れられた先は、見慣れたアルフォンスの部屋で、いつもと違うと感じたのは入った途端にアルフォンスが扉を閉めてしまったことだった。
「あの、アルフォンス……怒ってます?」
「……そうだね。でも、それは君に怒りをぶつけたところでどうしようもないことだとも分かってはいるんだ。だけどっ、何故、君はいつも――っ」
閉ざされた扉の冷たい感触がアスカの背に伝わる。アルフォンスの手がアスカの肩を掴み、どこか辛く今にも泣きそうなアルフォンスの顔がアスカにそっと寄せられた。頬を這うように触れるアルフォンスの手が、先とは違い、いつもの優しさに溢れていた。僅かに震える指先に、アスカも重ね取るようにアルフォンスの指に触れる。
「アルフォンス……何か、不安なのですか?」
「……赤い」
「赤い?」
「……僕のもの以外の印が、何故」
アスカの手をそのままにアルフォンスの指先は薄赤くなっていたアスカの虫刺されに触れた。アルフォンスの視線が注がれたまま二度、三度と撫で付けられ、アスカははたと気付く。強く吸われた痕の一つ一つを思い出しては恥ずかしさに顔が赤らんでいく。だが、途端に愛おしさが込み上げてきた。
「アルフォンス、大丈夫です」
アルフォンスが触れているところは、既に痒みは無くなっていた。「ここも、それからここも」と一つ一つアルフォンスの指を包みながら彼の印のある場所を示し、そっとアスカはアルフォンスへ微笑む。
「アルフォンスが付けてくれたものしかありませんよ?」
「でも、これは」
「これはただの虫刺されです」
「虫刺され……?」
「不思議ですね。さっきまで痒かったはずなのに、アルフォンスに触れられてると温かくて痒みも忘れてしまうみたいで……フリーズ様は虫刺されが珍しいそうですよ」
くすくす笑うアスカを前に、アルフォンスの顔は気恥ずかしそうに赤みを帯びる。
「いつもと逆ですね」
「……っはは。そうだね」
アルフォンスがようやくと見せたいつもと変わらない優しい笑みに、アスカは嬉しそうに目を細める。どちらからともなく口付けると、アルフォンスはアスカを寝台に促し倒した。
「あ、あの、アルフォンス、まだ明るい、です」
「うん。でも、もう少しはっきりとさせておいた方が良いかなと思って」
「……何を、です?」
「アスカは人を許し過ぎる。この距離を許して良いのは僕だけだよ、アスカ」
甘噛むように優しくアルフォンスの唇が寄せられ、舌先が触れ合う。吸い付く音を奏でる度に息は緩やかに上がり、アスカの頬はいつの間にか火照っていた。頬や肩、腰、身体のあらゆる箇所を撫でるアルフォンスの手も熱く、アスカの身体は容易く高揚していく。見る見ると変わりゆくアスカが好ましくて堪らなくなると、アルフォンスはアスカの服をするりと脱がし手を潜ませていく。
「あ、ああアルフォンス、待ってくださ――」
「今は優しくするよ。でも、今夜は抑制出来ないだろうから、覚悟するように。ね、アスカ」
Title by 4m.a(20200505)