人は外見で人となりを判断する。と、アイルゥは慌て情けない面を見せるブレディを見下ろしながら思った。
アイルゥとブレディは物資の搬入を手伝いに来ただけだった。輸送隊を担う自警団に混じり、主に回復薬の個数を確認して必要としている者達に配る。残数に心許無く思えば補充を頼まなければならない。回復薬も様々で、その効力も仕入れる度に確認しなければならないということもあり、強面に似合わない丁寧さで適切に対応するブレディに任された大事な仕事でもあった。アイルゥはそんなブレディの手伝い人である。手伝い人であるというのに、「見てねぇで助けろ!」と頼りなく下がる眉を見せるブレディに、アイルゥは「私、関係ない」と素っ気なさを見せた。
そう。関係ないのである。アイルゥは物資の搬入を手伝いに来たのであって、その場でブレディが困っていようが関係ないのだ。物資が積まれた場所で小走りしていた十も数えない幼い少女に、わざわざしゃがみ込んでまで目線を合わせ「ここは危ねぇから親んところ行ってろ」と優声でブレディは注意したのだが、途端にその少女が大声を上げて泣き出した。無理もない。整った顔立ちとはいえ、切れ長な目に染み付いた眉間の皺。吊り上がり気味な眉は男性にしては薄く細く伸び、顔を整形する箇所一つ一つが鋭く見えるのだ。そして細身でありながらも上背のある長身。おまけに、その見た目に反した趣味のバイオリンの弦に因って付けられた、額から頬に掛けて伸びる傷痕が、ブレディの見目を一層恐々強いものにしていた。
「……ねえ、そんなにこの人、怖い?」
「アイルゥ、お前、何言ってやがる」
物心着いた頃から一緒に居る身としては、ブレディを見て泣く程のものなのかと不思議に思う。確かに彼は凄みのある顔をしている。小さな少女からしたら、今は目線の高さは同じでも、上からその凄みある顔が近付いてきたということになる。驚くだろうし、ブレディの目力に圧倒されもするだろう。けれど、ブレディの声はとても優しいものだった。今も上向きに細く伸びる眉が頼り無く下がっている。
少女の小さな肩をとんとんと叩く。
「顔は怖いけど、優しくて、すっごい泣き虫なんだよ、この人」
「泣き虫は余計だ!」
「それに、いつも美味しいお菓子を持ってる」
お菓子という言葉に反応したのか次第に落ち着きを見せる少女に、アイルゥはブレディに向け、掌を差し出した。
「お菓子って、甘いやつ?」
「うん、甘いやつ」
紅茶を淹れる際に出すものとは違う小さめなものを、ブレディは常に携帯している。砂糖を煮詰め固めたものや口内に入れればほろほろと溶けるもの、噛めばサクサクと音を立てるものもあれば柔らかく弾力のあるもの。日によって様々で、その種類は幾つになるのか数え知れない。ブレディの腰に備えている鞄から小さな包みが出された。きつく結ばれていた紐を緩めると、中に丸く小さなお菓子が見えた。噛めばサクっと弾け仄かな甘味を広げる、アイルゥが特に好きなお菓子だ。ブレディの大きな手が「ほらよ」と一声添えてアイルゥの手の上に置かれる。
「ね、持ってたでしょ。はい、あげる」
「いいの……?」
「また欲しくなったらこの人に貰えば良いよ。この人、お菓子作るの好きだし、いろんなお菓子を持ってる。ね、ブレディ?」
「まあ、な……」
「あ、ありがとう……おじちゃん」
「お、おじ――」
「おじちゃん、堪える」
「おじちゃんじゃねぇよ!」
落ち着いてきたとはいえ、少女は未だ肩を上下させている。その窺う目線に、ブレディは苦笑しながら少女の頭に手を置き優しく撫でた。「気にすんな」と言いつつ、立ち上がったブレディの頬は僅かに緩んでいた。見られまいとアイルゥとは別方向へ顔を逸らしている。どこか嬉しくて、どこか泣きそうで、どこか照れくさい、そんな顔をしている筈だ。
涙の跡をごしごしと擦り終えた少女が遠くで手を振る輸送隊の一人の下へ駆けていく。父親なのだろう。その後ろ姿を見送りながら、アイルゥはブレディの感傷に浸る大きな背中を一つ無遠慮に叩いた。
「へそくり、もっと貯めないとね」
「……何で知ってんだ」
「お菓子の材料ってどれも高いでしょ。なかなか手に入らないことだってある。嬉しそうに、やっと手に入ったぜって私に言ってくるじゃない。察せるよ、それくらい」
見目に反して誠実で、堅実な彼のことなら何でも知っている。己を犠牲に出来る程に優しくて、人の悲しみに寄り添ってしまうくらい感傷的で、誰かの為に在りたいと願う程に心は真っ直ぐで。莫迦が付くくらい可愛い。
「次、会う時は泣かれはしないだろうね。怯えはするかもしれないけど」
「お前はいちいち一言多いんだよ……でもまあ、ありがとうな」
照れ隠すブレディの拳が優しくアイルゥの頬に触れる。見返した時には、積まれた木箱の蓋を開け目を細めながら中を覗き込む姿があった。賊顔が物資を横領してる様子にしか見えない。だが、そんな彼の傍に居たい。見目は怖くても、掛けられる言葉も触れる手も、どれもが優しい。そんなブレディが好きだと、言葉に出来ない代わりにアイルゥはブレディの背に向けていつもの言葉を投げ掛ける。
「……やっぱり、私が居ないとね」
「ああ?」
「ブレディには私が必要だって話」
「……お互い様だろーが」
ブレディの隣にはアイルゥが居る。それは逆もまた然り。
Title by morrina(20200410)