触れられた後の肌の熱さは空気の冷たさをより一層際立たせる。寝台から離れた円卓の上で、アスカはアルフォンスからの愛撫に耐えていた。胸元に熱い息を吹き掛けるアルフォンスの頭や逞しい肩に寄り掛かりながら、アスカは漏れそうになる声を必死に押し殺す。
「堪えないで」
「でも、っ……アル、フォンス……っ」
「アスカの声が聴きたいんだ」
「――っぁ」
中途半端に脱がされたままのブラウスの最後のボタンを解きながら、アルフォンスは柔らかいアスカの胸元を舐め吸う。身に纏うものを緩め脱がす様は、普段の穏やかなアルフォンスからは想像出来ないもので、アスカのアルフォンスへの認識ががらりと変わった瞬間でもあった。
「だ、駄目です」
「駄目じゃないよ」
形の良い膨らみの頂に触れ、アスカの声が上がる。胸元を庇う両手首を掴み上げると、アルフォンスはアスカの静止の声を待たずに食らいついた。弾力よりも柔らかさが勝るアスカの胸は石鹸の優しい香りに包まれて、アルフォンスの欲を促した。口の中に含んだ頂が舌の上で次第に象られていく感触が堪らない。少なからず快楽を与えられていると伝わるアスカの声が、アルフォンスの耳元で可愛らしいものとしか認識されなかった。
「気持ち良いかい?」
「そ、そんな、こと……言わなくても――っ」
「そうだね」
今にも泣いてしまいそうなアスカの頬にアルフォンスの唇が優しく触れる。ずっと触れたかったアスカの肌の柔らかさが愛しくて、そして強欲に駆られる。顔には出さないものの、アルフォンスの胸内は理性と感情の狭間で揺れ動いていた。
「もう少し、焦らしたいな」
「もう、いい、ですから」
「アスカが言ったんじゃないか。僕を癒したいって」
「でも、これと、違います」
「違わないよ」
顔を真っ赤にして背けようとするアスカのこめかみに一つキスをすると、アルフォンスはアスカの頬を両手で包み込んだ。大きな手に、長い指先。優しく撫でられ、アスカの耳はその指先に覆われる。
「誘い方を誰に教えてもらったのかは知らないけど……僕以外の人にしてはいけないよ」
ほんのりと顔を赤らめたまま、アスカはアルフォンスの下にやってきた。いつもなら赤らんだ顔を見られまいと俯くか、ぐっと堪えて視線を合わせるアスカなのだが、いつもと違うとアルフォンスが感じたのは少しぎこちない上目遣いのせいだった。何らかの意思のある行動に暫く様子を見ていると、アスカから「アルフォンスが最近お疲れのご様子なので、私、癒して差し上げたいんです……駄目、ですか?」と、半歩前に狭まれる。いつにない距離間に、ぐらっときた。そっと伸びてくるアスカの指がアルフォンスの服袖を掴み、耳に掛かる髪を後ろ耳に送るしぐさがたどたどしくて、初々しくも思えた。明らかにアスカが自ら取る行動ではないとは分かってはいたが、裏を返せばアスカが納得しなければ取らない行動でもある。その結論に至ってからアルフォンスはアスカの意志ある行動なのだと、触れても良い合図なのだと少し好ましい方向に解釈をした。
室内に招き入れ、応接用に備えてある長椅子に並び腰掛けると、アスカは両の手をぎゅっと握り締めてからアルフォンスの太腿にそっと手を乗せてきた。どくんと跳ねる己の鼓動に気付かない筈がない。思わず「アスカ……?」と呼ぶと、すぐ傍にアスカの顔があった。「何かして欲しいこと、ありませんか?」と、アスカの真っ赤な顔のままの真っ直ぐな目に射貫かれる。アスカの頬に再び掛かった髪にそっと触れて、耳の背へと流すと徐に頬を撫でた。恥じらう色を見せつつも、俯くことをぐっと堪えてるのか、アスカは退かなかった。その様に、アルフォンスは小さく笑って、アスカの唇に己のものを重ねた。始めは優しく。だが、次第に舌先で触れ攻め入る。何度目かの角度変えにて耐えきれなくなったのか、アスカが間を持とうとアルフォンスの腕から離れた時、ふらついたアスカがたどり着いたのが円卓で、そして今に至る。
「一つ教えておくよ。男の胸元や太腿に手を置いたり顔を近付けるということは、僕が今アスカにしていること……それ以上のことを許容している意味と、男は捉えるんだ。……分かってて、僕のところに来たんだよね?」
今までのアスカの様子から、酷く拒まれる様子はなかった。だが、アスカの恥じらいが先に進むことを渋る。アルフォンスはあえてアスカの言葉を待つことで、許容の度合いを測ることにした。一歩間違えば、離れてしまうかもしれないという怖さがアルフォンスの中にあるからだ。
「ごめん、なさい……」
「……うん」
「嫌なわけじゃ、ないんです。ただ、その……思っていたものと、違って」
「思っていたものって?」
はだける胸元を隠すようにブラウスの襟元を掴み寄せる。次第に俯き出すアスカの染め上がった顔が思っていたことを物語っていた。アスカの誘いは明らかに誰かからの指導だが、そこから導き出される筈だったのだろう結果が違うのだ。距離感を誤ったのはアルフォンスの方だった。
「……僕がこんなことをする男だと思っていなかった。そういうことかな」
「あの、そうではなくて……」
少し卑屈な言い方だったと気付いた時には、アスカの顔が上がっていた。違う、と訴えるアスカの目にはアルフォンスを拒絶する色は見えない。今まで優しく触れてきたばかりに、思い違いをしてしまっていたことに、アルフォンスはようやくと気付いた。
「……すまない。強引過ぎたね」
壊れないように触れてきたはずの手が途端に恐ろしく感じた。想いが通じ合っていると自惚れたばかりに、今まで築き上げてきた信頼を無下にしてしまうところだった。ただ、アスカはアルフォンスに愛おしさのその先を夢見ていたに過ぎなかった。触れることの嬉しさと、交わす言葉の恋しさ。優しく触れてくるアルフォンスの手が嬉しくて、もっと触れて欲しいと願ったことからの行動だったのだ。そして触れて欲しいと思っているのはきっと自分だけではないはずだと。
「私も、らしくないことをしたので……ごめんなさい。でも、嫌ではないんです、アルフォンスにもっと触れて欲しいですから」
だから――。アルフォンスの胸元にアスカが寄り掛かる。小さく呟かれた言葉に思わず生唾を飲み込んだアルフォンスは、そっと――だが強く抱き締め、アスカの唇に触れた。
「その、やめないで――って言葉も誰から教えてもらったのか、後でしっかりと聞かせてもらうよ」
アスカに少しばかりの意地の悪さを出してしまう。だが、注がれたばかりの甘い罠を掻い潜るには、その少しばかりの意地の悪さもなければ歯止めが利かなくなりそうで。アルフォンスは益々赤らんでいくアスカの顔を愛おしく覘き込みながら「続けるよ」と、優しく触れた。
Title by Postman(20190315)