覚めは君と

-番外編-

 ※もしも「不毛な恋路」の主人公が五年生だったら。

 朝の目覚めは割とすっきりな私は目覚め初めに隣に枕を並べ寝る兵助を起こす。目覚めの悪い兵助の手を取って井戸に向かい、顔や歯を洗って今日一日の支度を始める。部屋に戻って着替えて兵助に声を掛けて――掛けないと後で「何故、声を掛けなかった」と五月蝿い――朝餉を頂きに食堂に向かう。食べ終わった頃には勘右衛門や雷蔵、三郎、八左ヱ門と一緒に授業に向かう。授業が終わった後は大抵は委員会活動。私は兵助と共に火薬委員会の活動に出て「今日も委員長不在かあ」なんて言いながら、委員長代理を務める兵助を支えながら活動に精を出している。因みに昼餉も夕餉も一緒。疲れ切った身体を癒すのはお風呂だけど、私は兵助達とは別に早々に済ませて部屋に戻る。暇を持て余した三郎辺りが時折部屋に遊びに来るけれど、何時も手に持ってくるのは春本で、三郎も八左ヱ門も男の子なんだなあだなんて何気無く思ってみたり。そんなこんなで女の子の話で盛り上がっていると髪を艶やかに濡らして――でも男らしく胸板を堂々と見せて――帰って来た兵助に「春本、置いていくなよ」と言われて「おやすみー」「また明日なー」と帰って行く二人を見送る私。「今日もまた疲れたな」だなんて苦笑を漏らし合いながら布団に潜って寝息を掻く。これが私の大抵の日常。

「――って、おかしいだろう!」
「どうしたんだ急に」
「兵助はい組だろう。何では組の部屋に居るんだ。お前の同室は私じゃなくて、勘右衛門だろう」
「ああ、そうだけど、それが?」
「何って顔をするな!」

 寝入る前の枕を引っ掴んで私は兵助の顔面目掛けて投げ付けた。横になって肘を立て掌に頬を預けながら私を見上げてくる兵助は余裕だと言わんばかりに空いている片手でその枕を受け掴んだ。当然だと物語る面が憎らしい。

「俺と寝るの、そんなに嫌?」
「誤解を招く言い方をするな」
「だってそういう事だろう?」
「一緒に寝る事が嫌なんじゃない。私の部屋がお前の部屋と化している事が嫌なんだ」
「俺だけの部屋じゃないだろう。俺と栢丸の部屋だ」
「だから、それが嫌なんだって言ってるだろうが。此処は私の部屋! 兵助の部屋はあっち!」

 指差す方へ律儀に顔を向ける兵助は変わらずの面で。私は一人白熱してしまいそうになる苛立ちを深呼吸を繰り返す事により落ち着かせた。何時の頃からだろうか。最初は枕片手に持って「一緒に寝よう」と泊まりに来るだけだった。二人部屋を一人悠々に使っていた私は断っては変に怪しまれる事を恐れて「ああ、良いよ」と返事していたけれど、兵助の私物が増えていって、何時の間にか表札まで私の名の下に兵助の名が掛けられていた。木下先生に言うべきかなとも思ったのだけど、何だか負けを認める様で泣き寝入りするしか無いのかなとさえ思えてくる。

「勘右衛門は俺が居なくて清々してる」
「何でだよ」
「二人部屋を一人で自由に使ってるから」
「あの野郎」
「別に勘右衛門が嫌ってわけじゃない。俺は栢丸と一緒に居たいからこっちに来たんだ」
「何を訳の分からん事を――」
「栢丸は俺が嫌いか?」

 感情の見えない兵助の面。だが、言葉の色はとても重みがあって、向けられる相貌は相も変わらず真っ直ぐで、だからこそ目を逸らす事を許されない。

「……分かっている事を聞くのか」
「嫌いなのか?」
「っ――あーもう! 嫌いなわけないだろう!」

 途端、何の情も映さなかった面が柔らかい微笑に変じる。こういうところは可愛いと思うのだけど、男を演じて男と偽る私に向けられるものでは無い気がする。

「よし。問題無いな」
「そうじゃない。問題は有る。勝手に終わらせるな」
「俺は栢丸の事が好きだ。だから問題は無い」
「いや、大いに有るってそれ! って待て、何してるんだ!」
「見れば分かるだろ。布団寄せてるんだ」
「私が言いたいのは兵助の行動の意味だよ!」
「いや、隙間があるのは嫌だなと思ったからで――」
「そういや衝立を何処にやったんだ? 部屋にあった筈なのに何時の間にか消えてるし――って、入ってくるな莫迦!」

 隣の八左ヱ門の「五月蝿いぞお前ら!」との一喝が入るまで後少し。私は今日も今日とて懲りない兵助に悩まされて眠りに着くのだった。





「お早う、勘右衛門。二人部屋を一人悠々と使う心地は如何なものだ?」
「あー、お早う、栢丸。……それ、何?」
「ああ、返品するよ。兵助の私物の諸々。それから簀巻きにした未だ夢の中の兵助」
「えー。返されても多分、またそっちに行くと思うよ?」
「何でだよ」
「だって、兵助は栢丸に恋してるから」
「……顔を洗って出直して来い。目覚めの冗談を聞く耳は持って無いんだ」
「ふうん……兵助、まだ足踏みしてるんだ。先週、話聞いた限りでは今週中にはって言ってたんだけどなあ」
「……え゛、何が?」
「ふああ。よし、起きるか」
「え、勘右衛門、今の――」
「あ、兵助を起こすのは栢丸だからね。俺が起こすと一日中、不機嫌顔になるからさー」
「いやいやいや、待てよ、意味深な事言って逃げるなよ! 待てって、勘右衛もーん!」