※もしも「不毛な恋路」の主人公の同室が中在家長次と七松小平太だったら。
小平太の寝相はとても悪い。これは一年生の頃から六年生となった今も尚続いているもので、朝目が覚めた時に私を抱き枕にしていたり、夜中に小平太の足蹴りを食らって頬を腫らせた事もある。それ程に小平太は寝相が悪くて、空間を隔てる為に置いていた衝立も意味も無い事から私達は解放的に枕を並べて布団に入る。よくこれで私が女だと知られないものだな。なんて思っていると、小平太が今日も私の布団に枕を抱えて入って来た。私も存外、臆する事も無く受け入れてしまっているのでお互い様なのだけど。
「冷たっ。小平太、お前――」
「栢丸は温いなー。そして柔らかい」
「小平太の頬の柔らかさには負けるよ」
今は風が寒さを運んで来る秋。つい先々月までは暑い暑いと口にして私から離れて室の壁にぺったりと張り付いて寝ていたというのに。
「……止めろ。当たってる」
私の太腿や脹脛に這う様に足を絡ませてきた小平太のあれ。男なら必ずしも誰もが持っているあれが私の太腿に当たっている。意外にも柔らかいもので、でも時に固かったりする。そしてとても熱い。特に、長次の経験談とか聞かされている時とか、その柔らかさが次第に固くなって熱さを益していくのが如実に分かる。正直、もう慣れたものだけど、私が女だと知ったら小平太はどんな態度になるのだろう。今とあまり変わらない気もするけれど、少しは恥じらいを知って離れてくれると嬉しい。でも、私が女であるとは言えないものだけど。言ったらきっと恐ろしい事になる。私の同室仲間は小平太だけではない。あの女を垂らし込むのが上手い長次も一緒なのだから。
「小平太」
「栢丸にも付いてるだろう。細かい事は気にするな」
「……そうだな。何度と言っても止めないのが小平太だもんな」
以前、口五月蝿く言った事がある。何でも「栢丸の太腿に当てると気持ちが良いのだ」と、私はそうは思わないのだけど小平太曰くの褒め言葉を頂戴してしまった。女の子と戯れたり自分の手で気持ち良くしてくださいと心内叫んでいたけれど、この五年間、結局のところ直らず。長次も昔、小平太の隣で寝ていた時に口の中に足の指を突っ込まれたという経験から「小平太の縄を握っていろ」と目力で訴えられている事もあり、小平太のこの行動を良しとして私よりも小平太に肩を持つ。詰まりは小平太という荒波を防ぐ堤だ。私は長次と小平太の間に枕を置いて寝ている身だから。
「で、長次は?」
布団はちゃんと敷かれている。という事は、今日は室で仲良く並んで寝るという事だ。布団が畳まれたままの時はくノたま長屋にお邪魔しているという意味になる。
「私は知らん」
「何処ぞで猥談に花でも咲かせてるのだろうか」
「栢丸は猥談が好きだな」
「莫迦言うな。立派な男児として当たり前の事だろう。小平太だって好きなくせに、よく言う」
「私は話を聞くよりも抱きたい」
「まあ、それはそうだな。普通、そう思うな」
私は猥談が好きという事にしている。正直、あまり好きではない。でも、大抵の男よりも猥談に対する姿勢は積極的に見せている。そうする事で長次も小平太も皆が皆、私を男だと認識するから。猥談が苦手な伊作には毎回苦笑というか残念な顔をされるのだけど、こればかりは仕方が無い。男を演じるのだから、女だと思われない決定的なものを得ないと。
「先に寝るか。小平太、そこの灯りを消してくれ」
「私は嫌だ。寒い」
「私よりも代謝が良い曲に――って、そうだ。私よりも寒さに強いだろう。何で、私の布団に入ってまで暖を取ろうとするんだ」
「知らないでいる方が良い事もある。気にするな」
「おい、こら――ば、莫迦、そこは」
「栢丸は温いなあ」
「小平太っ」
時折――というよりも度々思う。小平太は本当は私が女であると気付いているのでは、と。私の肩に頬を摺り寄せて抱き着いて来る小平太は無垢なものだけど、授業中は私に容赦せず拳を出して来るからやっぱり男と認識してもらえているのかなとも思うわけで。
「長次が来れば消してくれるだろうから、私達はこのまま温まっていよう」
「……温まるのは良いとする。でも、今日は腕締めしてくれるなよ。まだ痛いんだからさ」
「それは分からん。寝ている間に骨折ってるかもな!」
「楽しそうに言うな!」
何だかんだで小平太の口癖である「細かい事は気にするな」に倣ってしまっているのだった。