の端に乗る真意

欺いては欺かれそして欺く

 仙蔵には悪いが出し抜く為には仕方が無い。俺は全てを知っている。仙蔵の下に来たくノたまが偽者で、仙蔵がお灸を据える為に室に誘ったという事。男として手を出すのではなく、騙そうとした相手が悪いのだと、そして騙す為に利用したものに二度と触れられない様にと、仙蔵はえげつない――それこそ、俺と仙蔵と長次、そして栢丸の四人で作った――最高傑作のからくりに陥れた。だが、俺はそれを栢丸――みつねには伝えない。何も想ってはいないかもしれないが、自分を想っていた奴が他の女と――だなんて知れれば自然と心は離れ行くものだから、友として傍に居るみつねを少しでも俺に寄せる為に、俺は仙蔵を利用した。案の定、みつねは仙蔵を避けている様だし、あの日の事で気を落としているのは確かだ。目に見えて分かる気迫の無さに、俺はみつねが少なからず仙蔵を想っていたのではと知った。

「……好きな奴なんか居ないなんて振りしやがって」

 仙蔵が鬱陶しいと言ってなかったか。いや、俺も散々に言われていたけれど。

「あとは伊作だな」

 傷を負っているからとか。風邪を引いているからとか。そんな体調に関わる理由を並べてはみつねを始終傍に置く伊作が憎らしい。みつねが栢丸であると知らない伊作だからこそ、俺にとっては厄介な事この上無い。さて、どうしたものかな。あ、いや、待てよ。みつねが栢丸として伊作の傍に居るという事は、みつねの室――仙蔵の室でもあるけど――は手薄という事だ。手拭いを首背に回しながら、俺は自然と口端に笑みを浮かべていた。





「無い。何で、無い!? どうして!?」

 伊作が先生に呼び出されたその隙を見て、私は兵助の室に藤の簪を取りに行った。けれど、昨日の朝に見た筈の藤の簪が何処にも見当たらなかった。下から二段目の引き出しにあった筈だというのに。瑠璃色の珠簪の隣にあった筈なのに、珠簪の隣は簪一つ分の空きを見せていた。

「……五年生はまだ帰ってきてないし」

 考えられるとすれば、兵助か尾浜に想いを寄せるくノたまの悪戯とか。いや、くノたまの悪戯であれば簪なんて盗みなどしない。もっと盗られて困る様なものを持って行くだろう。五年生長屋に近付く者なんて早々居ない。今の私くらいなものだ。後は――。

「栢丸。ちゃんと僕の室で待っている様に言っただろう?」
「伊作……」

 よく考えてみれば確かにおかしい。何で、昨日の朝、伊作は五年生長屋に――それも兵助と尾浜の室に――やってきたのだろう。私を探すならこんなところにまで来ない筈だ。だって、五年生は今は不在で、私が五年生長屋に行く理由なんて知らない筈だもの。何故、伊作は此処に来れた。

「……あの時、起きていたんだな」
「何の事? そんな事より、ほら。後輩の私物を物色しないの」

 私が開け放した戸を一つ一つきちんと閉める伊作の横面を見詰めていると、伊作が大きく息を吸って息を重く吐き出した。目蓋を伏せた後に私の方へと向き直る伊作の面は、融通の利かない患者を看る保健委員長の面ではなくて、以前に見たあの時の――「仙蔵が好きなの……?」と聞いてきたあの時の伊作の面で。

「探し物はこれだよね、みつね」

 一つ目蓋を伏せて開いた後に見えたものは、懐から私が探していた簪を手にして、目を細めては口端を緩やかに上げた何時もの優しそうな笑顔と少し挑戦的な声を持って私を見下ろしてくる伊作の顔だった。